原因は家族システムの中!
家族療法
家族療法とは、1980年頃から台頭してきた療法で、家庭の中での対話・感情表現・行動などの問題に焦点をあてた治療法です
家族療法では「原因は家族というシステムの中にある」と考えますから、治療の対象は問題のある個人ではなく「家族」となります。
カウンセリングに当たっては、カウンセラーが家族というシステムに変化をもらたらすよう積極的に働きかけますが、この療法の効果を最大限に引き出すには「家族の協力」が不可欠です。
従って家族の協力を得られるまで、カウンセラーが家族から信頼を得ることが出来るかどうかが大きなポイントとなってきます。
家族療法の準拠理論
1950年代以降、家族療法の理論が次々と提唱されました。まずはその代表的なものを紹介します。
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ボウエン派
個人のなかで理性と情緒とが十分に分化しているかどうかを重視し、個人が家族から分離しているか、融合しているかを問題にする「家族システム論」を提唱しました。
「個別化」と「自立性の促進」を目標にしています。
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コミュニケーション派
ベイトソンらの二重拘束理論(*)の流れをくむ臨床家たちが発展させました。コミュニケーションには「内容」とは別の次元で発生するメッセージ(ブロセス、メタ・コミュニケーション)があるとの前提に立ちます。
セラピストは主訴の背後に潜む相互関係の機能不全にも気づくように援助することで、表面上の変化(第1次変化)だけでなく、家族システムそのものの構造的変化(第2次変化)を促進させます。
家族内すべてのコミュニケーションの質的改善を目指します。
(*)同時に相矛盾する二つの次元のメッセージを受け取った者が、その矛盾を指摘することができず、しかも応答しなければならないような状態。ベイトソンは分裂病発祥者の家族にはこのようなコミュニケーションが多いと指摘しました。
例:(お母さんが子どもに向かって怒った顔や口調で)「怒ってないよ」
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戦略派
系譜としては,コミュニケーション派の延長線上にあります。「人間的成長」などのように長期にわたる目標設定を避け、家族の主訴を迅速かつ効果的に解決することを優先します。
催眠療法家のエリクソンに端を発する逆説的介入法を活用し、独創的な戦略的技法を開発しています。
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ミラノ派(システミック派)
ベイトソンのシステム認識論を最も忠実に臨床的文脈に持ち込んだ学派です。
症状を個人の異常や障害という視点からではなく家族システムの視点から理解しようと努め、そこから肯定的な意味づけを見出します。
システミック・アブローチでは、症状が家族システムの維持に肯定的役割を果たしていると積極的に認めて、家族に対しても現状の維持(症状が続くこと)を勧めます。
これに対して家族は困惑するが、その動揺こそが固定し繰り返されてきた家族の関係や交流のパターン(悪循環)を壊し、新たな家族システムの再編成を促すきっかけになります。
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構造派
家族システムの構造特性を明確に規定します。親は子どもと友人のような(同世代的な)関係を決して結ばないし、兄弟間にも出生順位・年齢差に応じた階層関係が認められ、弟・妹が姉・兄をしのぐような役割を演じる(同胞階層の逆転)ことはありません。
家族システムにセラピストが溶け込む過程を重視し、サブシステムの境界に働きかけ構造変革を促します。ミニューチンは特に、母子の共生的サブシステムを解体して、新たに両親のあいだに連合関係(両親連合)をつくりあげることが、治療的に有効だと主張しています。
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行動派
行動療法の原理を使用して、夫婦や家族が抱える心理的な間題を解決しようとするアプローチであるが、システム論を取り人れて家族の相互作用に治療的介入を試みます。
認知的行動療法の原理を用いた夫婦・家族療法も発展しつつあります。イメージの役割が重要視され、アサーション訓練なども取り入れられています。
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社会的ネットワーク派
核家族そのものを,それを取り巻くネットワークシステムやコミュニテイのサブシステムとして分析する立場です。
核家族内部の相互作用のはかに、拡大家族、親類、友人、宗教家、職場の同僚、隣人など、IP(患者とみなされている人物)との感情的相互作用のある人々との関係を総合的に考察してシステムを分析し、具体的な介入の戦略を立てます。
生態系的モデルが基盤にあります。家族が生活する生態システム内の社会的資源を最大限に活用しようとするアプローチです。
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諸理論の統合
1980年代に入りホフマンらを中心に諸理論の統合が試みられています。
家族療法の技法の構成と適用
リフレーミング技法
セラピストが問題状況や症状の事実にうまく適合するように新たな理解の枠組みを提示することで、家族の現実認知を変化させようとする技法です。
例:拒食症の家族
「親が子どもに食べさせることができずにいること」ではなく「子どもが家族を思う余りに自己犠牲的にやせていくこと」というセラピストの認知を受け入れるようになれば、家族全体の思考や行動が変化し始める。
問題発生の前提となった認知的・情緒的状況を修正することによって、やがて主訴そのものが軽減し始める。
注:家族療法でいうリフレーミングと催眠でいうリフレーミングは大きな意味では同じようなことですが、技法としてみれば違うものです。
パラドックス技法
セラピストが家族の1人に問題に関連する行動を逆転するように要請し、それによって他の家族員の逆説的反応を引き出すことを狙います。具体的には・・・
・ 治療的働きかけに対する家族のエネルギーを変化へのエネルギーに
転換させる症状処方
・ 症状処方によって症状が急速に変化した場合の抑制的指示
・ 進むべき新たな方向を指し示す再位置付け
という3つの形態をとって、問題を抱えたシステム内に第2次変化をもたらす